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(妄想小説)Firefighters 第5話 [妄想小説]

「それならよ!大塚の消防団に奥村んとこの次男坊いるじゃねえか、あいつ武士と良い勝負できるぐらい身体デカいし、来年辺り手伝ってもらえないかな?」
「えっ、康正のことっすか?」
「ほうよ!あと確か、古江の消防団にもガタイの良いのが1人おったなあ・・・」
「宮里にも確か・・・。来年辺りから、せめて出初めのはしご登りは消防団の奴らにも、頼んでみようか?」
「まあ正月のはしご登りは良いとして、そろそろここのことも考えておかんとなんねえぞ!大きな火事なったら、動けるの武士しかいなくなるぞ!」
「おうよ!それで、この前町長んとこ、怒鳴り込んでったんだ。いくら金ないっつうても、もうすぐ現場出れる奴いなくなるぞって!お前んとこが火事なったら、お前が採用した奴しか火消しに行かねえからなって言ってやった!」
「俺もあいつに、俺もう首にしてもらっても良いから、その代わりに誰か若い奴雇って欲しいって頼んだ。そうじゃないと万一の大火事あった時には、誰も止めれなくなるって、使えない上に高給取りのワシら雇うより、使える若い奴が多い方が良いって説得したんだ!」
「んでもあいつが町長なってから、採用された奴なんていねえじゃねえか!」
「だから、誰も行かねえって意味だよ!そしたら嫁さん共々血相変えてさ、今からすぐ募集掛けるからって・・・(笑)」
「それで急にこの時期なって、募集掛けたんかい!何やってんだよ、役場の奴ら・・・。もう新卒の奴ら、ほとんど行く先決まってるっつうの・・・」
「ほいで考えたんだけどさ、どうだろ?さっき話に出た大塚んとこの次男坊に声掛けてみねえか?大塚んとこの畑、どっちにしろ長男坊が後継ぐんだろ?なら見ず知らずのどこの馬の骨か判んねえ奴来るより、あいつなら消防団の経験もあるし、気心しれてるし・・・」
「えっ、康正を・・・」
「ただよお、あいつ中学生の時、町長んとこの息子と暴力ざた起こしてるしなあ・・・。それに、高校ん時も悪かったって言うじゃねえか・・・」
「俺んとこの息子が、中学の時の担任なんだけどさ・・・、入学したての頃は、真面目で活発だったし、クラスじゃ人気者だったらしんだよ・・・。それが、夏休み過ぎた辺りから、グレだして、聞いても何にも答えてくれなくなったって・・・」
「何、昔のことグダグダ言ってんだよ!高校卒業してからは、真面目にやってるじゃねえか!近所じゃ、愛想は悪いけど真面目で良い青年だって評判だぜ!」
「大塚の消防団じゃ、結構頑張ってやってるしな!」
「若い頃にゃあ、ちょっと悪いことしてみたくなるんだよ!」
「んでも、そうなると問題は町長だな・・・、弦ッ、お前町長のオヤジさん知ってんだろ?そっちから責めたらどうだ?」
「よっしゃ、任せとけっ!おやっさん褒め殺しに弱いからよ、ちょいと酒持って、今夜にでも行ってくら!」
「んじゃ、俺は直接町長に直談判してみるわ!」
「おう、何なら署長連れて、俺たちも一緒に行こうか?」
「武士っ!小さい頃から、康生は、お兄ちゃんお兄ちゃんっつうてお前に懐いてたから、ちょっと本人の意志と奥村のおっさんの考え聞いて来い!」
「はっ、はい。了解っす!」

 その夜、康正の家を訪ねた武士が康正の希望を聞くと、康生は出来ることなら消防士になって、武士の下で働きたいと言った。そして康正の両親も、息子の将来を心配していたこともあって、二つ返事で了解してくれた。

 先輩消防士達の努力が功を奏して、4月から康生が、新しい消防士として、武士の下につくことになった。もともと消防団員として経験があった康正は、トップの成績で県の消防学校を卒業し10月から俺たちの職場に来た。

 康正が、武士達の職場に配属されたその日、皆で康正の歓迎会が開かれた。誰もが、素直に康正が来てくれたことに感謝し、康正もここに来れた事を喜んでいた。酒が入り、皆が打ち解け始めた頃、話はどうしても康正の中学の頃の話になった。
「なんでまた、あん時に、町長んとこのガキと喧嘩したんだ?内の息子もお前はそういうことする奴じゃねえって、ずっと言ってたけど・・・」
「ほうよ!確かにあいつはいけ好かねえ奴だったけどよ!お前があいつぶん殴ったっつのが信じられなくてよ・・・」
「すいません!俺が、若かったんです!若気の過ちだっつうことで、訳は聞かないでください!お願いします!」
 康正は、そう言って頭を下げ、どうしても理由を話そうとしなかった。先輩消防士の誰もそれ以上は聞こうとしなかった。

 康生が来て消防署がすっかり明るくなった。元々お互い知った仲であり、康生が消防署の先輩消防士達に慣れ親しむのが早かったということもあるが、康生自身、子供の頃同様、ニコニコとして良く笑う好青年だった。特に、康生は武士には懐き、武士の指導に必死で食らいつき、技術を上げていった。また待機時間中にトレーニングマニアの武士がウエイトトレーニングに励んでいると、自分にも教えて欲しいと言って来て、武士と一緒に身体を鍛えるようになった。そのお陰もあってか、みるみる康正の身体は、大きくなり武士と比べても遜色ない程になっていった。そんな康正のことを先輩消防士達は「武士2世」と呼び、武士と康生が一緒にいると「熊の親子」だとからかった。康生は、そんなことない、まだまだだと汗かきながら必死で否定しながらも言われることが嬉しそうだった。

 その年の忘年会が、町外れの温泉旅館で行われた時も、康生は日頃の感謝の気持を込めて先輩みんなの背中を流すと言って聞かず、自分は汗をダラダラと垂らしながら必死でみんなの背中を洗ってまわった。武士は、自分は大丈夫だと断ったが、どうしても流させてくれと頼まれ、根負けして流させた。洗い終わった時、康生はやり遂げた満足感に嬉しそうだった。
 先輩消防士達にしこたま飲まされ、康生が先に潰れ、皆で布団に入ると弦さんがぽつりと呟いた。
「それにしても、どうして中学と高校の時、荒れたんだろうな?こいつは、小さい時から何にも変わってねえのに・・・」
「まあ、それはもう言いっこなしにしてあげな!康生には、康生なりの人にはどうしても言えない理由があったんだよ・・・」

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