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(妄想小説)Firefighters 第6話 [妄想小説]

 康生が消防署勤務になって2年目の冬、村の裏山で山火事が起こった。観光客のタバコの火が出火原因と思われたが、折からの強風に吹かれ、火は瞬く間に燃え広がった。幸いにも人家に延焼するようなことにはならずに済みそうだったが、あまりの火の勢いに、町中の消防団のほかに、隣近所の消防の協力や、自衛隊にも協力を頼んでの消火活動になった。
 地元の地理に詳しい武士と康生は、山の裏側の滝の近くの峠から消火活動に当たった。空から自衛隊のヘリコプターが大量の水を撒いた後、消しきれず残った火を、2人で必死に消して回った。水がなくなると、滝の上流の川から水をくみ上げタンクいっぱいにすると、また現場に戻った。ほぼ火の勢いが衰え、鎮火の兆しが見え始めた頃、最後のヘリコプターによる消火活動が数分後に行われるという時だった。
 ヘリコプターの消火予定場所の崖の上に、康生が1匹の怯えた子鹿を見つけた。そして、武士の言葉も聞かず康生は助けに行った。その時、ヘリコプターから大量の水が撒かれ、水の勢いに負け、康生は子鹿を抱いたまま崖の下に足を滑らせ落ちて行った。
 武士は、すぐに無線で本部に報告すると、康生を助けに崖を伝い降りていった。康生を見つけたのは、崖を降りた先の滝壺の横の平地だった。康生が大事に抱いていたお陰で、子鹿は無事に森の中に消えていった。康生も、左手と右足の骨を折ってはいたが、それ以外は着ていた消防服のお陰で、多少の擦り傷がある程度で、取り敢えず命に別状はなさそうだった。ただ康生を担いで戻るには厳しすぎる状況だった。消防本部に康正の無事とケガの状況を報告すると、夕闇が迫っていること、まだ消火できていない場所もあったことなどにより康生の救出は、翌早朝にヘリコプターで行うとの返事があった。取り敢えず武士は、一旦崖を登り消防車に戻ると、積んでいた救急箱と装備品の中から使えそうな物を担いで、康生のもとに戻った。そして搬送用の担架に康正を横たえさすと、折れた左手と右足の応急処置をし、傷口を消毒した。そして暖を取るため、川原に落ちている枝を集めるとたき火をおこした。
「すみません!自分1人のために・・・」
「お前は、消防士にとって一番大事なことを忘れたな!それは上司の命令に従うことだ!それが出来ないなら、消防士なんて辞めてしまえ!良いか、自分の気持ちだけで動くと、助けたい対象どころか、自分だけじゃなく他人までも事故に巻き込んで死なせてしまうことだってある。今回は、たまたま生死に関わる程のことにはならなかったが、覚えておけっ!」
 そう言って武士は、康生の頭をごっつんと拳骨した。そして康正の横に並んで寝転がると、康正のことを抱きしめた。
「康正、寒くないか?一応、応急処置しといたから、大事にはならないと思う」
「大丈夫です。ありがとうございます。ところで武士さん、いや武士兄ちゃん、ここ覚えてる?」
「そう言えば、昔、よく1人でここ来たなあ・・・でも、なんでお前がそれを・・・?」
「俺が中学の頃、たまたまここの下流に釣りに来てた時に、武士兄ちゃんを見掛けて、それで付いて行ったことがあるんだ。その時、木の陰から覗いてたら、武士兄ちゃんが素っ裸で滝のとこで泳いでた・・・。そして、一頻り泳いだ後、この場所で武士兄ちゃんが、素っ裸のままチンポを・・・。俺は、それから暇さえあれば、あそこの木の陰に隠れて、ここに武士兄ちゃん来るのを待ってた・・・」
「康正、お前っ・・・」
「あの頃さ、今でこそ町長の息子だけど、当時は鉄工所の息子だった薫がさ、俺と連みたがってさ、しょっちゅう週末になると遊びに行こう、行こうって誘われてたんだ。だけど、俺はここに来たかったから、いっつも断ってて、である時、こっそり俺の後を薫が付いて来てて・・・。途中で気がついたんだけど、その時、武士兄ちゃんが滝の方に行くのを薫も見掛けて、追い掛けて行こうとするから・・・、俺っ、武士兄ちゃんの秘密が薫にバレるの嫌で、いやっ薫に武士兄ちゃんの裸を見られるのさえ嫌で、行かせまいともみ合ってるうちに、あいつが川の石に転んで頭を岩にぶつけて、んで5針縫うようなケガして・・・。薫とは、その後元通りに仲良くなったんだけど・・・。その時、俺始めて自分が武士兄ちゃんの事、単なる憧れとか、尊敬とかじゃなくて、好きなんだって・・・。でも俺がどれだけ好きでも、武士兄ちゃんは、そのうち誰かを好きになって結婚するんだと思うと・・・。まあ俺みたいなバカに好かれても嫌だろうけど・・・。しかも男だし・・・。そんなこと考えたら、何もかもが嫌になって、んで妙に悔しくなって・・・」
「もお良い、しゃべるな!」
「もうちょっとだけ・・・。もう2度とこんな話しないから・・・。俺っ、武士兄ちゃんのこと好きだっ!だから、兄ちゃんが俺んちに消防士の誘いに来てくれた時、すげえ嬉しかった。兄ちゃんと一緒に仕事できるって、こんな俺でもちょっとでも兄ちゃんの手伝いできるって、すげえ嬉しかった。それなのに、こんなことになって・・・。兄ちゃん、ごめん!実は・・・。昔さ、兄ちゃんのセンズリ覗きに来てた時に、いっつも反対側の崖のところに今日みたいな子鹿がいてさ、俺と一緒にずっと兄ちゃんのこと見てたんだ。なんかさ、この世界で唯一俺の気持ち判ってくれてる奴みたいに思えて・・・それで、さっき・・・」
「・・・」
「なんかここ来て武士兄ちゃんに抱かれてると、何言っても許してもらえるような気がして・・・」
 康正の目から涙が一滴こぼれ落ちた・・・。そして、武士に抱きつき返そうと、身体を捻った。
「がっ、痛てえ・・・」
「バカっ!骨折れてる方に身体捻るからだろ・・・。おらっ、こっちに手を伸ばして・・・、真っ直ぐ寝な。じゃあ、俺の方から・・・」
 そう言って、武士は搬送用の担架の上に康正を真っ直ぐに寝かせると、左手に負担が掛からないように反対側に周り、康正を強く抱きしめ、そして口づけをした・・・。康正の目から大粒の涙がこぼれ落ちた・・・。
「武士兄ちゃん、もうそれだけで十分だよ!ありがとう!俺、明日からちゃんと・・・」
 武士は、もう1度康正に拳骨を食らわすと、康正の唇の上に人差し指を置くと、康正の言葉を遮った。
「お前は、子どもの頃から、いっつも1人で勝手に物事を決めつけてしまうだろ?悪い癖だぞ!昔っから、そう言ってきたのに、まだに治ってねえな!」
 武士は、そう言うと康正の零れた涙を拭ってやると、もう1度康正に口づけした。
「お前、この2枚目でモテモテの俺様が何で結婚しないんだと思う?お前だよ!お前のせいだよ!まあ、元々女には興味なかったけどさ・・・。兄ちゃん、兄ちゃんって言いながら俺の後付いて来るお前が可愛くてさ、本当の弟みたいに思ってた。だから、中学・高校で荒れた時は、本気で心配したんだぞ!それが、ガキだったお前が、高校卒業して消防団入って、どんどん大人の男になって・・・。いつの間にか、俺と同じぐらいの身体になって・・・。しかも俺を魅了するぐらいの男になって・・・。お前が、崖から落ちた瞬間、俺は死んでも死にきれないと悔やんだよ!せめて、1度でもお前のことが好きだと言っておけばって・・・。それが、どうだ!崖落ちたくせにピンピンしやがって、俺の心配を返せっ!」
 武士の目からも、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ケガ治ったら、もう一回、一緒にここ来ような。その時に、もう一度、ちゃんと正式に言わせてくれよ!好きだって・・・」(終わり)

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