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(妄想小説)熊のお巡りさん 第2話 [妄想小説]

 それ以降も、謙蔵が週末に交番で勤務をしている日は、毎日のように、登真が交番を訪ねて来た。ある時は、給料で自転車を買ったからと、中古のママチャリに乗って、嬉しそうにやって来た。またある時は、ボーナス貰ったからと言って、自転車のかごにショートケーキの箱を入れて訪ねてきた。またある時は、謙蔵の誕生日が近いからと、ネクタイのプレゼントを持って訪ねて来た。いずれの時も、贈り物は貰えないと断ると、勤務後帰ってみると自宅の扉に贈り物が掛けてあった。きっと職場や寮の仲間以外では、謙蔵しか知り合いがいなくて寂しいんだろうと思い、それからは素直に頂戴し、その分のお返しを用意して置くようにした。
 謙蔵は、昔から可愛がってもらってた黒木署長に、これまでの経緯と登真のことを話した。同じ宮崎出身の署長にとっても、少し気になったようで、1度面通しさせろと言ってきたので、週末の勤務明けに、謙蔵は、黒木署長と登真を誘い、駅前の居酒屋に飯を食いに行った。
「こっちのハゲた爺さんが、うちの警察署の黒木署長。こっちが吉川登真君です」
「初めまして!吉川登真です。斎藤さんには上京以来、ずっとお世話になってて、ご迷惑ばかり掛けてます。すみません」
「いや!いや!登真君、宮崎出身なんだって、宮崎はどこ?ワシは、串間じゃっど・・・」
「自分は、椎葉です」
「おおおおおおおおおおおっ!椎葉か・・・。そら、椎葉から東京じゃったら大変じゃったねえ・・・」

 その後も、登真と黒木署長の地元談義は花開き、謙蔵は黙って、酒をチビチビ飲みながら二人の話を聞いていた。翌日には、登真の話が警察署中に広がり、悪徳の大熊が善良な小熊を拾い、欺された小熊が大熊に恩返し中だと話題になった。

 黒木署長からも、少し面倒見てやれと言われ、その週の週末登真が交番を訪ねて来た時に、謙蔵が登真に声掛けた。
「登真、来週の日曜日は暇か?」
「他の寮の友達みたいに、こっちに知り合いいないんで、暇してます」
「じゃあ、ドライブでも行かないか?たまたま日曜日は、非番なんだ。どこでも好きなところ連れて行ってあげるよ!」
「えええええええっ?良いんですか?すごく嬉しいけど・・・。迷惑じゃないですか?」
「まあ、俺も暇してるし、いつもいろいろ差し入れしてもらってるから、お返しさ!」
「じゃあ、遠慮無く連れて行ってもらおうかな?」
「どこが良い?」
「うんと・・・・、海っ!海に行きたいです」
「海って、泳ぎにか?」
「俺、ずっと山の中で育ったから、こっちに来る時に、電車の中から海は見たけど、本当にゆっくり見たことないんです。だから、海に行きたい」
「よし、判った!じゃあ、10時に、寮に迎えに行くよ!真っ赤な車だから、すぐ判ると思う!」

 日曜日の午前10時、登真の会社の寮に着くと、もうすでに登真が両手いっぱいに荷物を抱えて待っていた。
「えっ、それ何?」
「お昼のお弁当作って持って来ました」
「おい!おい!二人分にしちゃ、多すぎるだろ!俺は、ドライブの途中や、海見ながら楽しめるよう、コーヒーポットに俺様特製のコーヒー入れて持って来た!」
「謙蔵さんが、どれぐらい食べるか判らなかったから、残して良いようにいっぱい作った。久しぶりに謙蔵さんのコーヒー飲めるって嬉しいなあ・・・」
 まるでデートのようにはしゃぐ登真を助手席に乗せ、謙蔵は海に向かって車を走らせた。車の中で、二人は楽しくおしゃべりした。話のネタが尽きることはなかった。そして話題が登真の子どもの頃の話になった。
「勉強は苦手だったなあ・・・。特に数学と英語、もうちんぷんかんぷんで・・・。いっつも先生に怒られてた。俺、とろいから時間掛けるとなんとか解けるんだけど、試験って時間制限あるじゃないですか?そうすると、始まった瞬間から焦ってしまうんです!(笑)その分、結構運動は得意だったすよ!子どもの頃から、柔道してたから、そのお陰で、この力と身体手に入れましたから!(笑)」
 そう言って、登真は両腕に力こぶを作って見せた。
「柔道やってたんだ!強かったのか?」
「いや!いや!いや!子どもの頃からやってから、他の人よりちょっと強いって感じぐらい・・・」
「俺も、柔道してるんだぜ!これでも若い頃は、警察の代表で大会に出てたんだ!」
「わあ〜、すごいなあ・・・。謙蔵さん、強そうだもん、顔も・・・(笑)。あっ、海だ!」
「顔が強いは、余計だろ!(笑)この先に、ちょっとしたビーチがあってさ。誰も知らなくてすごくキレイなんだ!俺の秘密の場所だから、誰にも内緒だぞ!」
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