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(妄想小説)熊のお巡りさん 第4話 [妄想小説]

 それから1週間程過ぎた頃、登真がひょっこり交番を訪ねてきた。
「あっ、登真君・・・」
「登真っ、お前そんなことなら、なんですぐ相談しに来ないんだ!心配したじゃねえか・・・」
「すみません!ご心配掛けて・・・」
「もお良いっ、すまん!大きな声出して・・・お前が一番辛いだろうに・・・」
「謙蔵さん、とうとう一人になっちゃった・・・」
 謙蔵は、涙の溢れ出した登真を、しっかりと抱きしめた。
「お前、明日休みだろ、今夜はうちに来い!もうすぐ勤務明けるから・・・」

 謙蔵の勤務が明けると二人で駅前の居酒屋で飯を食った。必死で謙蔵が面白い話をするが、登真はニコリと笑顔を作るだけs で笑わなかった。無言のまま、帰宅し風呂に入ると布団を敷き、寝転んだ。すると登真が謙蔵の布団に潜り込んできた。謙蔵は、黙って登真のことを抱いてやった。登真は、必死で泣くのを堪えてるようだった。
「登真、泣きたい時は泣いたら良いんだよ!泣きな!大声だして泣いてみな!そしたら、少しは楽になれるから・・・」
 登真は、押さえていた感情が溢れ出て来たのか、大声で泣き出した。謙蔵は、黙って登真が泣き止むまで抱き続けた。
「ヒックっ・・・。謙蔵さん、ありがとう!ちょっと、楽になった・・・」
「登真、無理すんな!泣きたい時は、泣けば良い!だけど、登真は独りぼっちじゃねえぞ!確かに血は繋がってないけど、俺も、宮本警部も、黒木署長も、それに会社の寮長さんや、仲間だって、みんなお前のこと心配してたんだぞ!だから、決して登真は独りじゃねえぞ!何かあったら、いつでも俺のこと頼って来いよ!俺が、お前の兄ちゃんになってやるからよ!」
 登真は、その言葉を聞くと、ウンウンと頷きながら、また泣き始めた。謙蔵は、しっかりと抱いた。
「謙蔵さん、優しいね・・・。本当の兄ちゃんみたいだ・・・。俺、謙蔵兄ちゃんのこと好きだ!逢った時からずっと謙蔵兄ちゃんのこと好きだった!」
 登真は、そう言うと謙蔵に抱きついてきた。謙蔵は、しっかりと抱き返した。
「俺も、登真のこと好きだよ!お前のことが、心配で、心配で仕方なかった・・・」
 謙蔵は、そう言うと登真の上に覆い被さると、登真の唇に、キスをした。
「明日、あの海にもう一度行ってみよう!」
 そう言って、謙蔵は、また登真を抱きしめた。

 翌日、二人は起きると、すぐに謙蔵の車で、以前訪ねた小さなビーチに向かった。ビーチに着くと、謙蔵の持って来たマットの上に並んで座り、謙蔵は登真の肩を抱いた。登真も、素直に謙蔵に寄り掛かった。そして二人は、無言のままずっと海を眺め続けた。

 登真に笑顔を取り戻して欲しいと思った謙蔵は、必死で考えた。どうすれば登真が喜ぶのか、どうしたら母の死を乗り越えられるのか。何か、一瞬でもその事を忘れて取り組めるものがあれば・・・。その時、登真が海に行った時に、子どもの頃から柔道していたという話を思い出した。試しにやらせてみよう。謙蔵は、昔から謙蔵のことを可愛がってくれていた講道館の井上館長に電話をし事情を話した。
「登真、来週の日曜日、柔道しに行こう!道着は、俺の貸すから・・・」
「えっ?柔道ですか?もう長いことやってないから・・・。謙蔵さんの前で柔道するの恥ずかしいなあ・・・」
「登真、俺、柔道してるのを見ると、その人が判るような気がするんだ!真剣に相手に立ち向かった時、その人の心が戦い方に出るような気がする。だからこそ、俺は柔道が好きだし、無心になって何にも考えないで取り組めるんだと思う。どうだ、久しぶりに柔道してみないか?」
 
 道場に着き、館長にお礼を言って、道着に着替えた。道着に着替えた登真は、いつもより気が引き締まっているのか、いつもより凜々しく、目の輝きが違って見えた。
 一通りの練習が済み、登真と組み合うことになった。
「えっ?????登真・・・。おおっ、こいつできる・・・。油断してるとやられるかもしれない・・・」
 試合は、謙蔵が力尽くで登真をねじ伏せた。だが、一つ間違うと危ない試合だった。
「館長っ!ちょっと・・・」
 謙蔵は、館長に声を掛け相談すると、今、若手で上り調子の選手と組ませてみることにした。
「どうです館長・・・」
「いいね!すごく良いよ!どこにこんな子いたんだ?」
「なんでも、高校までやってたみたいなんですが・・・。その後は・・・」
「今、いくつだ?」
「23かと・・・」
「5年前か・・・。あっ、思い出した!宮崎の吉川登真!確か、国体で良いところまで行ったはずだよ。荒削りだが、思い切った良い試合してた。あの時、優勝した大熊に負けたが、決してひけを取らない試合だった。道理で・・・、もう止めたって聞いてたが・・・。お前どこで見つけた!こりゃ、ちゃんと鍛えたら将来有望だぞ!」
 その国体の時は、階級の違いもあり、優勝候補の1人だった謙蔵は試合に集中してたため、覚えてなかった。
「そうか登真、すごく強かったんだ・・・」

 道場の帰り、車で登真を会社の寮まで送り届けている途中で、謙蔵は登真に聞いた。
「登真、柔道は好きか?」
「はい!大好きです!久しぶりだったんで、思うようにできなかったけど、楽しかった」
「じゃあ、続ける気はないのか?」
「今の工場勤めだと、なかなか時間が取れなくて・・・それに会社に柔道部ないし・・・」
「そうか・・・、お前が警察官なら、鍛えてやれるのになあ・・・」
「あっ、あのお・・・、俺、今からでも警察官になれますか?」
「えっ?警察官にか?」
「ずっと考えてたんです。子どもの時から、特に何になりたいとかって思ったことなかった。今の職場も、俺が成りたいってより、母ちゃんが成れって言うから勤めだしただけで、これまで特にこんな仕事してみたいって思った事無かったんです。斎藤さんに助けてもらってから、もしなれるなら警察官になりたいなあって・・・。ただ俺頭悪いし、とろいし・・・」
「お前、本気で警察官なりたいか?もしそうなら、今からでも間に合うか調べてみるけど・・・」
「俺っ、なれるんなら、警察官なりたいです!」
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